森に立ち込める硝煙の臭い。
そう、今僕が居る場所は鼻を突く硝煙が漂っている。
それは何故か?答えは簡単だろう。
此処が紛れも無い戦場だから。その訳にそれ以上も無ければそれ以下も無い。
硝煙だけではない。銃声も悲鳴も狂気も普段は聞きなれない音と、平和の下では容認されていない暴力が充満している空間。それが戦場。
それでも今はそれらはもう無い。既に戦闘は終了したのだから。会敵した敵の数は合計十人。
その内の半分は僕が倒し、その他の半分は僕の部隊の味方が片付けた。
毎度毎度の事だが、僕は戦場に行くと必ずヒトと呼ばれる種が嫌になる。
互いを殺し合い、奪い合い……心の底にある願望を戦争で出して、その癖それが終われば幼児の約束並にあてにならない言い訳、「もう戦争はしない」を連呼するタチ悪い生物。
それでも僕は此処でしか生きることが出来ない。決して僕が殺人の快楽に溺れている訳ではない。
かと言って立派な軍人の様に国の為に戦っている訳でもない。
ただ単に僕が戦争でヒトを殺す以外に自分の生きている意味を見出せないだけ。
他人は僕の事を悪魔や人非人と呼ぶだろう。でも僕はそいつ等に言いたい。
だったら貴方が自分が生きている意味を見出せるのか?……と。
もしその返答が生きるために生きているだったら僕は大笑いするだろう。
何しろ生きる意味が生きるなのだから。折角貰った命を何もせずに終わらせる方こそ、僕はそれこそ命の無駄と言いたい。だったら戦争に行って間接的には国の為に人を殺す方が余程マシだと思う。
でも、それは僕が悲しい人間だと言う事を意味しているのだろう。
例えるなら吸血鬼……いや、違うな。だって僕は血は吸わないし、吸血鬼の様に綺麗には殺しはしない。
さっきの戦闘で僕が殺した五人中四人は僕が頭を撃ちぬいた。
よく映画で頭に小さな穴が開いた演出がある。実際あんなに綺麗じゃなく、僕が殺した四人だって血以外にも脳漿や脳、それに砕けた頭蓋骨をそこら辺に四散させて死んで行った。
頭に当てられなかった一人は手強くて、それまでの敵に全ての弾丸を使ってしまった空の弾倉を交換余裕すらなかった。
本当なら僕は其処で死ぬだろう。でも、最初は少しだけ火を噴いていた銃口が運良く相手も弾切れかジャム───弾詰まり───を起こしたのかは知らないけど、兎に角アサルトライフルが使えなくなったのは、くどい様だけど本当に運が良かった。
本来なら其処で僕も相手も拳銃で戦う場面なのだけど相手がナイフを持って飛び掛ってきたから僕も同様にナイフで応戦した。
これは僕なりの礼儀で僕と相手が一対一の場合には極力相手と同じ得物で戦う。この時は味方が僕とは反対方向で戦ってくれて僕が相手にした五人以外には敵が居なくて、尚且つその敵が最後の一人だったから同じナイフで戦った。
結果最初の一撃を僕が躱し、がら空きになった脇腹にナイフが一閃させた。
多分肺に刺さったらしく、その一撃で相手が力無く倒れてしまった。死んではいなかったが放って置いても死ぬしナイフを持ち上げる事すら出来ない体だった。
この礼儀をやると、何時も僕の仲間は死にたいのかと呆れるけど僕自身に負ける気が無いから僕の勝手だろうし、不利だったら僕だって此方に有利な武器を使う。
第一僕みたいな人間が生き残っても、この世の大多数の偽善者は落胆する事だろうし、悲しむ人間も多分居ないだろう。これも僕が悲しい人間である面の一つだ。
でも僕はこれを苦は思わない。
僕が他人をあまり必要とはしないと同じでアチラ側も僕が必要だとは思ってはいないからだ。
『俺達は本当に必要とされてないんだろうな』
そう言ったのは僕の仲間の一人。
ソイツもさっきの戦闘で死んだらしく、一緒に行った部隊の仲間が暗い顔で戻ってきた。
この戦場に僕たちが派遣された二週間前の部隊の人数は僕を合わせて八人。
今此処に居る部隊の人数は四人。この二週間で四人が減り単純計算で四日に一人死んでいる事になる。
僕はこの部隊の隊長だ。と言ってもこの部隊は八人だから小隊と区別される隊で、たまたま三尉───少尉───の僕が小隊長にしては無難な階級だから隊長になっただけ。
隊長だからと言って僕が部下の死を悼む事は無いし、僕の責任は何にも無い。
僕を含め部下達も死を悼まれる事をされたく無いから僕らはそれを暗黙の了解としている。
だけど全く悲しくないという訳ではなく、だからこそ一緒に戦った部下達が暗い顔で帰ってきたのだ。そういう僕だって部下が一人減って少し悲しい。ソイツは気のいい奴だったから尚更だ。
でもそれだけ。僕らはそれだけの存在。仲間から死を悼まれるのではなくあくまで悲しまれるだけの存在。悲しむだけでそれで終わり。それ以上の事は何も考えない。
考えすぎると今度は自分が悲しまれる対象になるから……それだけは避けたいから。
でも時々僕は考える。
確かに僕はヒトが嫌いだ。そう、自分も含めて。つまり自分が嫌いなのだ。
それなのに何故僕は僕を殺さないのか?何故僕は僕の味方なのか?
多分それは僕が僕の嫌いなヒトであるから。ヒト……いや生物に最も深く食い込いでいて強い欲望、生存欲が働いているから。
だから僕は死にそうになるとはっと「生き残りたい」と頭を全てを支配する。死ぬのが怖くて、生き残りたくて、他人の事なんてどうでも良くて……
そう、生き残りたいから『敵』と見なされた他人を殺した。
その度に僕は嫌になる。僕という人間が、ヒトと言う種が、偽善が全てが嫌になる。
別段殺人に罪悪感に駆られている訳ではない。ただ僕は僕自身が嫌いで死にたいのにも関わらず生きたくて他人を殺す。それが腹立たしい。
僕はふと空を見上げた。何時の間にか日が降り空が暗くなり始めていた。昨日までに比べ日の落ちる時間が早いと思えば、今日も曇りだった。多分それも手伝って早くに世界を暗くしているのだろう。こうだと敵が見にくいし何よりも僕らは明日の明朝、この戦場から離脱する。
だから僕は皆に休憩を取らせる事にした。
火を焚くと煙が出て敵に位置を知られるので火は焚かず、代わりに光の弱い軍用の懐中電灯を使った。本当はどの様な場合でも光を使ってはいけないのだがちょうど良い洞窟を見つけたので、懐中電灯を使ったのだ。
洞窟内で火を焚くと一酸化炭素中毒で窒息死する可能性があるのでやはり火を焚く事は無い。
それぞれが食事の準備をする……と言っても火が使えないし、備品に生モノは入れることが出来ないからレーション───軍用携帯保存食───しか食べるモノが無い。敢えて言うなら小銃を握ったままレーションを取り出すのが普通の取出しとの相違点だ。
よって準備は即ちレーションを取り出すこと。ただそれだけ。
そんな事で正直あまり美味しいとは言えないレーションで夕食が始まった。
僕はレーションを空け付属の簡易スプーンで掬って食べる。何度食べても面白くない味だ。
なんかのゲーム……だったか。中古ゲーム屋の店頭先のTVで主人公がレーションの味をボロクソに批判していた所を見た事がある。
正直あそこまでの反応を示すほどに味は悪くは無い。実の所レーションは美味しくもないし不味くも無い。
ただ単に味気が無さ過ぎるだけだ。美味しい不味い以前の問題であり、実際僕らはこれを食べると言うよりも、ただ滋養を取り込むだけの作業と見なして食事を行っている。勿論他のちゃんとした食べ物は嬉しそうに食べるのだけど。
多分、僕以外は他も食べ物は喜んで食べるだろう。
でも僕はレーションは勿論の事、他の食べ物でさえ滋養を取り込む作業として見なしている。それは僕が生きるための一サイクルとしか見ていないから。
自分が生き残るために他の生物を殺す。そう、いま生きているヒトの全てが何かしらを殺して生きてる。云わばヒトは死を食べて……いや、食とは即ち死と同意語でヒトは死で構成されている。
それに平和も戦場で死んでいった兵士達で構成されているし、ヒトが住む町だって木を殺して作ったモノ、歴史だって過去の戦争で死んでいった者達がつくったモノ。
偽善者は死は兎も角、殺は悪と説く。……その者も死で構成されている癖に。そんな戯言吐ける平和も死で構成されている事も知らずに……
世界はこんなにも死で構成されている。それなのに、ヒトは世界が美しいと呼ぶ。そんな事欺瞞でしかないのに、偽善でしかないのに、汚いと思っているのに共感してしまう僕が腹立たしい。
そんな僕に僕は何度も牙を剥き、僕は僕に負けのうのうと生き延びる。また僕は僕を嫌になり牙を剥き……そんな事の繰り返しのイタチごっこ。
でも僕はこうして生きている。やはり僕も人間でしかないから。
作業的に口に運んでいたレーションも最後の一口になり、やはりそれも作業的にスプーンで掬って口に運んだ。
空いた容器を片付け、僕の目の前を綺麗にする。勿論、片付けの際にも小銃は握ったままだ。
片付けが一段落し、僕は少しの間物思いに更ける。議題は先の戦闘で倒したあの敵の事だ。
僕がカタを付けるその刹那、あの敵は何かを口にした。僕が解らないのだから習った英語か母国語の日本語以外のどこかの言葉だ。多分語感からして中東の方の言葉だと思う。
でも内容はおおよそ解る。多分女の癖に、と僕に向けて言ったのだろう。別にそれも珍しい事ではない。僕の性別について何か言われるのには十分に慣れている。
それでも僕は性別の事を言われるのはやはり嫌だし、何よりも僕は自分が女である事を感謝した事が無い。
だから僕は自分の事を僕と呼ぶし、なによりも女っぽい男に見間違える為に女にしては短い髪型にしている。それでも男にしては長め程度だけど。
ただ、そこまでしても僕が男に見られることは無い。一時期どうして僕が男に見られないかを真剣に考えた時期も合った。ただ答えは直ぐに……そして至極くだらない結果だった。
僕の顔が幼いけれども男に見られない顔付きだったから。実際に男に見間違えられる女の顔を観察してみたがどれを取っても僕よりも活発そうで、成る程確かに少年と見られてても不思議には思わなかった。
それが解った時何処か悔しく、同時に今までの無駄ながらも一応は頑張ってきた努力が水泡に帰したからほんの少し無気力に駆られた。もっともそれも一時的な物だったのだけれど。
僕が女である事が嫌になったのはいつだったか……
そうだ。確か……アレは中学生の頃……何年生かは忘れたけど、僕が複数の男に犯された時からだ。あの時程自分が女である事を嫌になった事は無かった。ただ悔しくて、男達が醜くて、憎くて、本当に殺しかった。
そういえば……僕は今思うと異性を好きになったことが無い事に気が付いた。
「小隊長」
そう僕に声を掛けたのは若い三曹。と言っても僕よりも年上なのだけど。
彼はこの部隊では珍しく非常に明るい性格をしており、部隊内でも一、二を争う暗さを誇る僕が隣に立つと彼の明るさが目立つ変わりに僕の暗さがさらに増す……そんな感じだ。
でも彼はこの部隊の潤滑油の存在になってくれて、編成されたばかりの部隊で皆緊張しきった状態を気の利いた冗談で緊張を和らげた男だ。
僕より年上と言っても僕の歳に近く、暗い僕にも良く話しかけている。もっとも僕は生返事で返す事が多いけど。
早い話、僕は彼がこんな仕事やるのには向かいない性格だと思っている。でも、戦闘に生き残っている事は此処に必要な才能が揃っているからであろう。僕と同じ、暴力に秀でた悲しい人間。と言ってもこの場合の暴力は人を殺す能力を示す意味で、純粋に腕っ節が強い訳ではない。
此処はそんな人間の溜まり場だ。僕の様に暴力に優れた人間や、そんな人間を実験台して兵器の威力を確かめる武器業者の陰謀、僕らには興味の無い国の政策と政策の衝突、生存欲のぶつかり合い、それらの混ざった混沌がこの戦場と言う空間。
僕は彼の眼をちらと伺いその眼が何かを問う色を見せていた。
同様に眼で問いたい事を言うように促し、彼も僕同様に眼でそれを読み取りゆっくりと口を開き始めた。
「小隊長は自分が生きている理由を考えた事……ありますか?」
意外な質問に僕は少し驚き、普段良く喋る彼からは予想もつかない質問だった。
それも僕がほぼ日常的に考えている事だったので尚の事驚き、僕の小隊では珍しいタイプと思ってた彼も、結局は僕の小隊───根暗軍団───の例外に漏れていなかった事を確認した。
類は友を呼ぶ。隊長の僕がこんな性格ならばやはり似た様な性格が部隊に集まると言う事だろう。
「あるよ。それも日常的に……ね」
結論は、と追加されて僕は反射的に考えた。
僅か数秒ででた結論は、僕が此処に居る意味も、生きる意味も結局は解らないと言うつまらない事。何しろその理由を考える時は人類の存在意義すらも考えなくてはならないからだ。
それに僕はそういう事を考えてもあくまで自分の糧にしているだけで、別段その考えを何処ぞの思想家よろしくに他人に振りまく事も無い。
だから他人に僕のその考えを示すのはこれが初めてだった。それに、少なからず彼には話易そうなイメージがあったからだ。
「解んないよ。僕が何故此処に居るのかも、何故僕が人間として生まれてきたのかもね」
其処まで言い切り、一度息継ぎをする様に一拍休む。
次に一気に捲し上げる。
「ただね、生きると言う事がね……ただ単に幸せを作ることだったらそれはどうしようもなくおかしい事だと思う。人それぞれ違うけど、大方はその幸せは子供が出来る事だと僕は思う。でもね、僕は子孫を増やす為だけの生は意味があるのか、と思う」
そう、子孫を残すだけの生なら僕いらない。だった僕ら人間に心を持たせる必要も無い。
いずれは死に行く体。死を恐怖する因子も、愛情も、同情も感情全てが必要無い。だったら感情を持たない植物の生の方が子孫を増やす為だけに特化された生と言えるし、僕の価値観から言えば完成された生だと思う。
それに比べ僕ら人間の生は酷く歪で、悲しく、虚しい。それもこれも全てが感情と言う邪魔な障壁が所為で酷く無常な生に感じてしまう。何故感情というものがあるのだろう?感情があるからヒトは狂うのではないのだろうか?
でも、感情があるからこそヒトはヒトであるゆえんであるのだと、納得する僕も居る。感情が無ければヒトがヒトでは無くなる。確定……とは至らないけど漠然とした結論。
何故僕がこんな結論に至るのだろう。それも何故か漠然と解る。それは僕がヒトでしかないから。
多分人間は自分の存在や感情をを考える時、自分がヒトであるからと結論付けるように造られているのではないか?でもなければヒトという種を嫌う僕が自分がヒトであると言う嫌な事実を認める結果にはなら無い。
「でも、だからと言って僕らのように同族を殺しあうのもおかしいと思う。結局は僕らも彼らも、与えられた人生を無駄にしているのかもね」
その台詞に彼が驚いたらしく、半ば呆然とした表情で僕の顔を見つめた。当たり前だろう。その言葉は今までの僕の考えをあっさり否定する事と同義語なのだから。
僕が普段思っている事、即ちそれはただ無為に一日を過ごすのよりも何かを成す方が有意義と言うもの。
例えそれが僕らみたいに人を殺す事でもあってもそちらの方が余程意味のあると信じて疑わなかった。
それをあっさり否定したのだから彼も驚く筈であろう。正直言った僕自身も冷静に言えた事に驚くほどであるのだから……
「だからね、結局はヒトが自分の人生を考える事は無理なんだと思う。それこそ仙人じゃない限り……ね」
意外と素直な所から出てきた言葉にそれまで暗かった気持ちが心なし明るくなり、洞窟の天井を見上げた。
暗く、低い天井にも関わらずそれがとても高く、そして何故かとても綺麗で明るく見えた。
久しぶりに見る明るい光景。そんな物が見える場所がこんな陰険で湿り、暗い洞窟でこんなことが思える事が酷く滑稽だ。
あまり頬を緩める事の無い僕だがこの時ばかりはその滑稽さに負けて少し頬を緩ませた。
最後に頬を緩ませたのはいつだったか……。ついさっきだったかも知れないし、もう何年も笑っていないのかもしれない。つまり笑う事は僕にとってどうでも良い事。
それはそう。他人の夢の話以上に僕にとってはどうでも良い事。この戦争が何故起こっているのかも、何故平和を誓った日本が僕らを戦場に送り出してきたのもそれと同様にどうでも良い事。
僕は戦場で人を殺す事に秀でている。その得意技を生かして僕は間接的に国を守る事に貢献している。普通の兵士ならばそれは喜ばしい事で、武勇伝として語る事に足りる事だろう。
でも僕はそれを語らない。語る人間が居ない。語るに値する人間が居ない。それに……僕は他人から罵られる事が好きだったのかもしれない。
いや……違うな。他人とは違う何かをしていると言う優越感が得られることが好きなのだろう。そんな人間嫌いな僕が人間らしい一面を持つのは僕がヒトでしかないから。僕が劣等感の塊だから。
矛盾だらけの体、心、存在。それがヒトと言う種。矛盾と嘘の女、それが僕。此処に居て良いとも、このまま生き延び人生を全うする事も知らない女。解らない女。
それでも今までの僕のようにその事を悲観することは無い。ずっと胸に留めて置いたモノを吐き出したからだろうか?兎に角本当に清々しい気分。本当に懐かしい気分。
人間嫌いな事は変わりは無いけどそれでも、今は僕自身についての僕が下した評価は少しばかり改善されただろう。何しろ今の僕は少し……本当に少しだけだけどこんなヒトの世界も悪くはないと思ったからだ。
ふと、気が付けば僕の部下達は僕と目の前の彼以外はもう寝静まっていた。
どうやら乗り遅れたらしい、ともう一度笑い……っと言っても苦笑いを浮かべ手にした小銃を杖代わりにしゆっくりと立ち上がった。
乗り遅れた、と言うのは即ち夜の見張りの事。最低でも二人は必要だから僕と彼で丁度勘定に合う事になる。内心で上司をコキつもりかと冗談染みた事を呟き、逃げ遅れた旨を彼に眼で伝え、僕は先に洞窟の入り口に向かった。
彼がその眼に籠めたメッセージを受け取ったのだろう。僕の背中には彼が何も言わずに付いて来る気配が伝わった。
何故かそれだけなのに何処か安心する自分を感じ、自分の胸を内を明かしただけでこんなにも心情が変わるものかと、自分の現金さにすこし呆れた。
でも、そんな僕でも……今ではほんの少しだけ好きになれそうだ。
ヒトは何故生きるのか?
生きる意味を探す為に生きているのだろうか?
それは違う。
だったら何のた為に?
よく解らない。
それでも今の僕には意味が解らないのが人生だと。
その答え自体が意味が解らないけど。
それが今の僕の結論。
洞窟から出てふと夜空を見上げた。
入る前に空を覆っていた雲が綺麗に消え、見事な星空だった。
あの雲は僕の心の蟠りを映していたのかも知れない。
雲が消えた今、僕確かに心がスッキリしている。
そんな事に妙な確信を得つつ明日帰るべく国を思い浮かべた。
偽善者の多い国だけど、それでも僕の帰る国だ。
一つ、少しだけ成長したと思いつつ、遠足を明日に控えた子供の様な心情を密林の夜に馳せた。
帰ったら隣で半ば立って眠る彼と何処かに行こうかと考える僕の眼は、きっとあの夜空のように綺麗だったに違いない。